【資本を理解する】
○資本会計の意味、分類、企業主体論VS資本主理論
【株式発行の処理・損失の補填の方法など】
○株主資本
1.株主資本の構成
2.株式の払込期日の処理、株式発行費用の処理
3.余剰金の配当
4.当期純利益の振替・任意積立金の積立・その他利益剰余金
5.株主資本の係数変動、欠損の補填★
6.株主資本等変動計算書★
資本をどのように調達し、どのように株式に分配できるのか?赤字になった時の処理はどうするのか?
資本会計でまず覚えることは、法律上の決まりを元に計算していくやり方だよ!
法律上、見解がわかれる論点もあるから・・・分かりにくくなっているんだね!
まずは、資本の分類を理解しよう!
そして、資本会計の概要をつかんだら・・・
資本会計の初歩→株式の発行時の処理方法、配当の処理、繰越剰余金の使い方などをまずは覚えていこう!
資本会計の意味と分類
資本会計の意味
資本会計とは、B/Sの純資産(自己資本)の構成と変動を明らかにする会計である。
株主資本変動計算書を見ると、会社がどのように利益を配当や積立などに使ったか?株式の発行や自社株の取得によって資本がどのように変化したかが分かる。
資本会計は企業の経営戦略や、社会的貢献などを理解するのに役立つのである。
資本の役割 | ・企業活動に必要な資金の源泉 ・株主や債権者などの利害関係者への責任を表す |
分析指標としての資本 | ・資本の額や種類、増減の原因や方法がわかる→経営分析 ・企業のリスクと収益性のバランスを示す指標 ・資本のコストや収益率、資本構成や効率性などわかる→企業の競争力・成長性・価値創造能力の分析の有用な情報 |
資本の社会的要素 | ・企業の社会的責任や持続可能性の観点からの重要な要素となる。 ・資本の分配や再投資、社会的・環境的影響などがわかる→企業のステークホルダーとの関係や社会的インパクトなどを考慮するのに必要な情報 |
資本の分類
負債と純資産を合わせた、B/Sの右側の部分全体が総資本と呼ばれているの。
純資産部分は、自己資本。
大切なのは、資本金と資本剰余金を合わせた「払込資本」よ。
払込資本の基本は、企業が株式を発行して、資金を株主から調達した部分となるの。
この元手としての払込資本と、企業経営で得た利益である「稼得資本(利益剰余金の部分)」を区別して考えることが重要な論点となるわ。
受贈資本と評価替資本
払込資本(資本剰余金=資本)になるか・・・稼得資本(利益剰余金=利益)になるか・・・その分類について学説が分かれるものがあるの。
それが、「受贈資本」と「評価替資本」よ。
受贈資本とは、企業の資本充実を目的として株主以外のものから拠出を受けたものをいい、贈与剰余金とも呼ばれる。
評価替資本とは、企業が保有する資産を評価替え(再評価)することによって生じる自己資本の増加部分をいう。
払込資本 | 資本金 | |||
資本剰余金 | 資本準備金 | 株式払込剰余金、合併差益 等 | ||
その他資本準備金 | 資本金及び資本準備金減少差益、自己株式処分差益 | |||
受贈資本 | 国庫補助金、工事負担金、私財提供益、債務免除益 等 | |||
評価替資本 | その他有価証券評価差額金、土地再評価差額金、固定資産評価差益、保険差益 等 | |||
稼得資本 | 利益剰余金 | 利益準備金 | ||
その他利益剰余金 | 任意積立金 | |||
繰越利益剰余金 |
企業主体理論と資本主理論
受贈資本を資本剰余金(=払込資本)とみるか、利益剰余金(=稼得資本=利益)とみるか・・・
なぜこんなに、どっちなの?と分類するかというと、資本剰余金と利益剰余金は、明確に区分されているの。
明確に区分されている理由としては、その発生源泉と性質が違うからよ。
資本剰余金は、株主との取引のうち、資本金にならなかった部分になるよ。
利益剰余金は、企業が得た利益のうちで配当金にまわらなかった部分だよ。
このように区別することは、財務分析上とても大切なことになるんだよ!
資本剰余金は、株主がその企業の株をどれだけ買ったか?という指標にもなる。資本剰余金が増えると新規事業の展開をこれから考えている会社かな?とか、そういう期待も高まるわね。
利益剰余金は、過去に企業か稼いだ利益よね。それが増えているとなると、ああ、安定している企業だな、と投資家は思うわよ。
会計学では、受贈資本を資本剰余金と考えている。
一方、会社法や法人税法では、利益剰余金と考えている。
その見解の違いに、企業をどのようにとらえるか、という企業観がある。
企業主体理論と資本主理論である。
企業主体理論
企業主体理論は、企業を株主から独立した別個の存在として認識し、企業それ自体の立場を重視する見解である。すなわち、資産、負債及び資本はすべて企業それ自体の資金を構成するものとしてとらえるのである。
→会計学(企業会計原則)
資本主理論
資本主理論とは、会計の意思決定主体は資本主にあるとする立場であり、企業の資産及び負債はすべて所有主である資本主(株式会社の場合は株主)に帰属するという見解である。
→会社法、法人税法
受贈資本の例
見解①~会計学
企業会計原則では、受贈資本を資本剰余金と考えている。
→企業主体理論
株主以外からの資本の受入れも、それが企業資本の充実を目的とする限り、企業自体からはそれを元手たる資本(資本剰余金)として取り扱うべきだとしている。
もし、受贈資本が利益剰余金として扱われたら・・・
配当にまわされたり、課税されたりして、贈与者の贈与の目的が達成されないでしょう?
株主や債権者などが、贈与者になるんだけど・・・
例えば、会社が経営不振に陥ったときなんかに、会社の財務状態を良くしようとして自分の財産を会社(法人)に贈与したりする場合だね。
もし、この贈与部分の財産が、利益として、株主配当にまわったりしたら・・・?
何だか本末転倒というか、贈与した財産で財務状況を改善することが出来ないことになるよね。
会計学はそのことを主張しているんだ。
見解②~会社法・法人税法
会社法、法人税法では、受贈資本を利益剰余金と捉えている。
→資本主理論
株主以外の者から拠出されたものも、例えば企業の解散時を考えると、それらは株主以外の者に返還されずに、結局は株主に分配されてしまうので、受贈資本は基本的には株主に帰属する利益(利益剰余金)であるというのである。
・・・こちらもうーん。なるほどね、と思わせるわよね。
受贈資本を利益として扱った場合の問題点は、法人税が増えたり、株主に配当しなければならなくなったりすることだけど・・・
受贈資本を利益(利益剰余金)と取り扱った場合の問題点は、圧縮記帳の方法で経済的実態をより適正に反映させることができる、と会社法・法人税法は主張している。
だけど、圧縮記帳できる贈与財産は限られているし(固定資産など)、増えた法人税は繰延されるだけ。受贈資本を利益にすると圧縮記帳したところで、その分だけ納める税金が増えることには変わりないよね。
だから、企業からしてみたら、資本主理論を主張する税法の考え方は相容れないところがあると思うよ。
純資産の部の構成
4つの種類がある。
①株主資本、②評価換算差額等、③株式引受権、④新株予約権だ。
最初に学習するのは、いわゆる純資産の代表、「資本」とイメージするもの=株主資本についてである。
資本金 | 会社財産を確保するための一定の基準となる金額。払込金額又は給付財産の額。 | ||
資本剰余金 | 資本取引から生ずる剰余金 | ||
資本準備金 | 株主の資本払込取引から生じた払込剰余金、株式の出資金額のうち資本金とならなかったもの。 | ||
その他資本剰余金 | その他資本剰余金を配当する場合、資本準備金と利益準備金の合計額が資本金の4分の1に達するまで、剰余金の配当金額の10分の1を資本準備金として積立てなければならない。 | ||
利益剰余金 | 利益を源泉とする剰余金 | ||
利益準備金 | 配当する前に積み立てることが会社法で義務付けられている。 | ||
その他利益剰余金 | その他利益剰余金を配当する場合、資本準備金と利益準備金の合計額が資本金の4分の1に達するまで、剰余金の配当金額の10分の1を資本準備金として積立てなければならない。 | ||
任意積立金 | 取締役会の決議や株主総会の決議などによって、繰越利益剰余金から積み立てられた金額 | ||
繰越利益剰余金 | 当期純利益及び当期純損失から振り替えられた金額 |
配当するときに準備金を積立ることは、会社法で定められているのね。
会社の財政基盤を強化、それから債権者の保護を目的とされているわ。
企業会計原則は、あくまで会計基準であって「法律」ではないんだよ。会社法の中に「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」とあるのだけど、これがまさに「企業会計原則(=慣行)」。
だから、従う必要があるんだよ。
上記の図のように、企業会計原則に「法律」たちが色々規制をかけてくる。
会計と税法、似て非なる者といわれるゆえんはこの辺りの関係性にありそうだ。
株式発行時の処理(仕訳)
設立時・新株発行時の会計処理(基本)
○資本金組入れ額(設立時・新株発行時)
①原則:株主→払込みした金額
現金預金1,000/資本金1,000
②容認:払込み金額の2分の1以上
現金預金1,000 | 資本金500 |
資本準備金500 |
資本準備金に入れておくと・・・会社が赤字になりそうなときの補填なんかに使えて、企業にとって便利がいいのよ。
ひとたび「資本金」となったら、株主総会を開いたりして減資の手続きが必要になったり・・・会社の信用も失うしね、なかなか大変で慎重に行う必要があるの。だから、最初から資本準備金としておくのよ。
別段預金
別段預金・・・銀行などが一時的に預かる資金の勘定科目。通帳や証書は発行されない。決済されていない資金や整理されていない資金、一時的に預かった資金などを保管する。
会社を設立・増資した際、株式を発行→「別段預金」に払込みが行われる。
流動資産。
新株式申込証拠金
株式発行の際、公募に応じた株式引受人(応募者)より支払われた証拠金のこと。
→管理のため、一時的に「別段預金」に証拠金を入れている。
証拠金は払込期日を迎えると→株式発行され→資本となる。
払込期日
○新株式発行時、払込期日が設定された場合→その払込期日から株主となる。
払込期日まで | 別段預金1,000 | 新株式申込証拠金1,000 |
払込期日 | 当座預金1,000 | 別段預金1,000 |
新株式申込証拠金1,000 | 資本金500 | |
資本準備金500 |
※新株式申込証拠金の段階では、株として資本金に組み込まれることがまだ確定していない状態。
創立費
創立費・・・会社を設立するときにかかった支出額。会社設立時の株の発行費も創立費となる。
①原則:支出時に費用(営業外費用)
②繰延資産とする場合:会社成立のときから5年以内のその効果の及ぶ期間にわたって定額法で償却。
支出時に費用処理するより、繰延資産として計上した方が、企業としては利益をコントロールしやすいのよね。
設立時に赤字だった場合・・・費用処理したら設立した期の赤字が増えるだけだけど・・・繰延資産にすれば次の年にも費用化できるから、もし次の年が黒字だった場合、繰延資産の償却で利益を圧縮することが可能となるの。
そうすると、利益が減るから払う税金も少なくなるってわけ。
だから、繰延資産とできるもの(創立費、開業費、開発費など)は、繰延資産とすることが多いわよ。
株式交付費
株式交付費・・・会社成立後、新たに株式を発行するために直接支出した費用のこと。
①原則:支出時に費用(営業外費用)
②繰延資産とする場合:株式交付のときから3年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却。
配当の処理
その他資本剰余金の配当
その他資本剰余金を配当する場合、資本準備金と利益準備金の合計額が資本金の4分の1(基準資本金額)に達するまで、剰余金の配当金額の10分の1を資本準備金として積み立てなければならない(計規22条1項1号)。
①株主総会決議時
その他資本剰余金1,000 | 未払配当金1,000 |
その他資本剰余金100 | 資本準備金100 |
②配当金支払時
未払配当金1,000 | 現金預金 |
その他利益剰余金の配当
一般的には、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)が配当金として使われる。
その他資本剰余金も配当することは可能なのだけど・・・
通常は、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)が配当される問題が出題されるわよ。
その利益剰余金を配当する場合、資本準備金と利益準備金の合計額が資本金の4分の1(基準資本金額)に達するまで、剰余金の配当金額の10分の1を利益準備金として積み立てなければならない(計規22条2項1号)。
①株主総会決議時
繰越利益剰余金800 | 未払配当金1,000 |
配当準備積立金200 |
繰越利益剰余金100 | 利益準備金100 |
未払配当金1,000 | 現金預金1,000 |
配当を受けた側の処理
○売買目的以外の有価証券=その他資本剰余金より配当を受けた場合は、投資有価証券の簿価を減額する。
現金預金1,000 | 投資有価証券1,000 |
※上記以外、売買目的有価証券やその他利益は、現金預金1,000/受取配当金1,000の処理となる。
損失の補填
当期純損失
当期純利益 | 損益1,000 | 繰越利益剰余金1,000 |
当期純損失 | 繰越利益剰余金1,000 | 損益1,000 |
任意積立金の取崩
任意積立金の積立とは・・・その他利益剰余金(利益)の一部を会社が将来に備えて自主的に積み立てること。
→配当にまわされる利益を減らすことができる。
積立時 | 繰越利益剰余金1,000 | ○○積立金1,000 |
取崩時 | ○○積立金1,000 | 繰越利益剰余金1,000 |
損失の処理
繰越利益剰余金がマイナスになった場合、○○積立金を損失の補填とする。
→赤字にならなくて済む。
損失の処理 | ○○積立金1,000 | 繰越利益剰余金1,000 |